
「高齢の親(おじいちゃん、おばあちゃん)の食事が心配…」

「毎日のご飯作り、手伝ってあげたいけど遠方に住んでいるし難しい…」
そんなとき、栄養バランスの取れた温かい食事を自宅まで届けてくれる「宅配食」は、本当に心強いサービスですよね。

「宅配食の費用って、介護保険でまかなえるのかな?」

「介護保険で受けられる食事に関するサービスってあるの?」
と、疑問に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私はこれまで、管理栄養士として多くの高齢者の在宅生活のサポートを行ってきました。
今回は、大切な家族のために、宅配食の利用を考えている方、高齢者が受けられる食事補助について知りたい方に向けて、この疑問にお答えします。

大切なご家族のためにも、皆が納得してサービスを受けられるようにしたいですね。
結論|宅配食そのものは介護保険の対象外です

まず、多くの方が期待されているかもしれない「宅配食の代金に、国の介護保険が直接適用されるか?」という点についてです。
結論から伝えると、ざんねんですが、民間の宅配食サービスそのものの利用料金は、原則として介護保険の給付対象になりません。
宅配食が介護保険の対象とならない理由としては、
- 食事は、高齢者・要介護者にかぎらず、すべての人が生活するために必要なもの
- 介護保険法で定められた「食事支援サービス」「居宅サービス」「施設サービス」に該当しない
が挙げられます。
そのため、宅配食は、高齢者の生活を維持・サポートするための「自己負担のサービス」という位置づけになります。

代替策もお伝えしますので、もう少し読み進めてくださいね。
介護保険で受けられる「食事支援サービス」とは?

正しく理解するために大切な、そもそも介護保険ではどのような食事に関するサービスが受けられるか、について説明します。

宅配食と介護保険の関係性を理解するために、重要なポイントです。
介護保険で給付の対象となる食事関連のサービスは、主に以下のようなものがあてはまります。
- ケアプランに基づき、ホームヘルパーが自宅を訪問し、本人のために食事の準備や調理を行うサービスです。
- 材料の買い物なども含まれることがありますが、あくまで本人のための調理であり、家族の分をまとめて作ることは原則できません。
- これは介護保険の「生活援助」というサービスに位置づけられ、自己負担割合に応じた費用で利用できます。
- 低栄養状態や栄養バランスに不安がある方に対して、管理栄養士などがケアプランに基づいて、月に1回の頻度で栄養指導や相談を行います。これは介護保険の給付対象となる場合があります。
これらのサービスは、専門職が関わり、心身の状態やケアプランに基づいて提供される「介護サービス」の一環としての食事支援です。
それに対して、「宅配食」は調理済みの食事を自宅に届けるという「物品の購入や配達に近いサービス」とされています。
そのため、介護保険の給付対象とならない、と定められています。

この点が、大切なポイントですね。
塩分制限食の宅配食は、医療費控除を受けられる?

高齢者の宅配食では、病院で医師や管理栄養士から指導を受けた「食事療法」の内容に当てはまるように、「制限食」というメニューが用意されていることがほとんどです。
ここで浮かぶのが、

「病院で指導された治療のための食事療法」だから、宅配食の費用は医療費控除の対象になるのかな?
という疑問です。
結論から言うと、こちらもざんねんですが、
治療のために医師から特定の食事療法を指示され、自宅で宅配食を利用した場合であっても、その食事代や配送料は医療費控除の対象にはなりません。
基本:病気や怪我の「治療」に直接必要な費用
具体的には、診察費、治療費、薬代、入院費、通院のための交通費などが該当します。
入院中の病院で提供される食事の費用は、医療費の一部として医療費控除の対象に含まれます。
これに対して、
自宅での療養のための「食事」は、たとえ病気の治療のための「特別な食事」であっても、医師の診療を受けるための費用ではないため、医療費ではなく日常生活を送る上での「生活費」とみなされます。
なので、制限食などの特別な食事としての宅配食は、医療費控除の対象外になります。
参考:国税庁 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/13.htm
諦めるのはまだ早い!市区町村独自の「宅配食の補助」がある

国の介護保険では宅配食の費用をまかなってもらうことはできませんが、お住まいの市区町村によっては、高齢者向けの宅配食に対して独自の助成金や補助金制度を設けている場合があります。
介護保険制度とは別に、各自治体が地域のお年寄りの安否確認や栄養状態の維持を目的に行っている取り組みです。
自治体ごとに利用できる対象者の条件が異なります。
配食サービス利用可能者の例
- 対象者: 一人暮らしの高齢者、高齢者夫婦世帯、またはそれに準ずる方(介護認定を受けているまたは所得制限がある場合が多い)
- 助成内容: 食事代の一部助成、配送料の割引など、自治体によって内容は様々
※詳細は、お住まいの市区町村の高齢者福祉課や地域包括支援センターに問い合わせをお願いします。

ぜひ一度、親御さんがお住まいの自治体の制度を確認してみてください。
介護保険対象外でも、宅配食が高齢者や家族に選ばれる理由

ここまで説明してきたように、高齢者の宅配食では、国の介護保険や医療費控除などの制度を利用することができません。
ですが、多くの高齢者のご家庭では、自治体連携の配食サービスや民間会社の「宅配食」が利用されています。

「宅配食が利用されている理由」について、管理栄養士の視点で説明します!
このように、宅配食の利用は、
「手軽に・安全に・栄養バランスの良い食事を食べられる」という食事内容の安心だけでなく、「食事を準備すること」への安心と、高齢者のご家族であるあなたの「負担を減らすこと」にもつながります。
家族の負担を減らすための、宅配食の便利な利用例

必ずしも、1日3回の全ての食事を宅配食にしないといけない、というわけでもありません。
なので、利用を予定している高齢者の生活スタイルやご家族のサポート状況に合わせて、週に数回だけ利用している方も多いです。
例えば…①
朝食:自分で用意して食べる(軽めの朝食)
昼食:「自治体連携の配食サービス」または「民間会社の宅配食」を利用する
夕食:「民間会社の宅配食」で「おかずだけ」を利用して、炊いたお米と一緒に食べる

これなら、費用を抑えながら、制限食や特別食を利用することができますね。
例えば…②
水曜日:デイサービスを利用
木曜日:宅配食を利用
金曜日:宅配食を利用
土曜日:子供(孫)が食事を持ってきてくれる
日曜日~火曜日:土曜日に子供(孫)が持ってきてくれた食事を食べる

家族のサポートありきですが、たまに利用する宅配食が楽しみになりそうですね。
「宅配食」に関するより詳しい説明は、以下の記事をご覧ください
まとめ|介護保険を利用できなくても代替策はある

この記事を読まれたあなたは、大切なご家族の食事や健康を気遣い、少しでも負担を減らしたいと考えていらっしゃると思います。
繰り返しになりますが、宅配食そのものは国の介護保険の対象ではありません。
ですが、この記事で説明した、
- 訪問介護での調理など、介護保険で利用できる「食事関連サービス」がある
- 市区町村独自の宅配食の助成制度や配食サービスの補助が行われている可能性がある
- 何かしらの宅配食の利用は、ご家族の負担軽減や高齢者の栄養維持といった大きなメリットがある
というようなことを参考に、諦めずに、別の角度から宅配食の利用を検討してみてください。
宅配食は、単に「安定して食事を準備できる」ということだけでなく、高齢者をサポートしているご家族、子供や孫の立場であるあなたの、心の支えと安心感にもなるはずです。

いくつかの宅配食サービスを比較検討して、ご家族にぴったりのものを見つけてみてください。
まずは、お住まいの自治体の福祉窓口に、高齢者向け宅配食の助成制度がないか問い合わせてみましょう。
自治体連携の配食サービスと民間会社の宅配食の違いについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください
参考
国税庁HP 医療費控除の対象について/食事療法に基づく食品の購入費用 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/13.htm
国税庁HP 医療費控除の対象について/入院患者の食事代 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/18.htm
静岡県富士市/食の自立支援事業
https://www.city.fuji.shizuoka.jp/kenkou/c0402/rn2ola000000exct.html
大分県大分市/食の自立支援事業
https://www.city.oita.oita.jp/o081/kenko/fukushi/1087520454452.html
コメント